お寺のキャッシュレスのまとめ

連載


はじめに

日本の伝統と現代テクノロジーの融合が進む中、お寺においてもキャッシュレス決済の導入が徐々に広がっています。参拝者の利便性向上や管理の効率化など、メリットは多岐にわたりますが、宗教法人特有の懸念点もあります。このコラムでは、お寺におけるキャッシュレス導入の現状と課題、そして実際の導入事例について解説します。

キャッシュレスの種類

現在普及している主なキャッシュレス決済方法には以下のようなものがあります:

クレジットカード:最も普及している決済方法の一つで、VISA、Mastercard、JCBなどのブランドがあります。後払い方式で、手数料は比較的高めです。

交通系IC:Suica、PASMOなどの交通カードで、少額決済に便利です。チャージ式のプリペイドカードで、即時決済が可能です。

QRコード決済:PayPay、LINE Pay、d払いなどのスマートフォンアプリを使った決済方法です。QRコードを読み取ることで支払いが完了します。手数料が比較的安いのが特徴です。

電子マネー:Edy、nanaco、WAONなどのプリペイド式電子マネーです。専用カードやスマートフォンアプリでチャージして使用します。

世の中のキャッシュレスの普及具合

日本のキャッシュレス決済比率は年々上昇しており、特にコロナ禍以降、非接触決済の需要が高まっています。政府も「キャッシュレス・消費者還元事業」などの施策を通じて普及を後押ししてきました。若年層を中心に日常生活でのキャッシュレス利用が一般化し、観光地や商業施設だけでなく、小規模店舗や従来現金主体だった分野にも広がっています。

日本のキャッシュレス普及状況

キャッシュレス決済比率の現状

(経済産業省 2024年3月29日公表資料 より引用)

  • 2023年の日本のキャッシュレス決済比率は39.3%(126.7兆円)に達し、年々堅調に上昇しています[1][2][3][4]。
  • 政府は「2025年6月までにキャッシュレス決済比率を4割(40%)」という目標を掲げており、現状この達成はほぼ確実な状況です[2][3][4]。
  • 2030年には50%に到達する可能性も示唆されています[2]。

決済手段別の利用状況

決済手段金額ベースのシェア(2023年)
クレジットカード83.5%
コード決済8.6%
電子マネー5.1%
デビットカード2.9%
  • クレジットカードが圧倒的なシェアを占めていますが、コード決済(QR/バーコード決済)は前年比37.5%増と急速に伸びています[2]。
  • 電子マネー(Suica、Edyなど)やデビットカードも一定の利用がありますが、全体ではクレジットカードが主流です[2][5]。

利用頻度・世代別の特徴

  • 日常生活で「7〜8割以上キャッシュレスを利用する」と答えた人は全体の54%[6]。
  • 50歳以上の世代でもキャッシュレス利用率は高く、若年層(18-29歳)はやや現金派が多い傾向があります(学生などクレジットカード未保有者の影響)[6]。
  • 1,000円以下の少額決済では現金利用が依然多く、低価格帯の店舗ではキャッシュレス未対応が目立ちます[6]。

日本のキャッシュレス普及の特徴と課題

  • 日本のキャッシュレス比率は韓国(93.6%)、中国(83.0%)、イギリス(63.9%)など主要国と比べてまだ低い水準です[3][7]。
  • オンラインショッピングの普及やスマートフォンの浸透、交通系ICカードやPayPayなどの台頭が普及を後押ししています[7]。
  • 慢性的な人手不足への対応や生産性向上の観点から、今後もキャッシュレス化の推進が期待されています[7]。

今後の展望

  • 政府と民間が連携し、法規制や共通基盤の整備を進めていることから、今後もキャッシュレス比率は上昇傾向が続く見込みです[2]。
  • 2030年には50%到達が現実的とされ、さらなる普及が見込まれています[2]。

支払い方法によって「課税」「非課税」の区分は変わるのか?

宗教法人の経営者の方にキャッシュレスの話をすると、この点を心配される方が多くいらっしゃいます。結論から言えば、支払い方法によって非課税だったものが課税対象になる、といったことはありません。

国税庁の出しているリーフレット「宗教法人の税務」にも「喜捨金や対価の収受が、現金で行われる場合と現金以外(キャッシュレス決済)で行われる場合とによって、収益事業の該当性が変わるものではありません。」(令和7年版 宗教法人の税務 P.12)と明記されています[11]。宗教法人の本来の宗教活動に関する収入(寄付金やお布施など)は、支払い方法に関わらず非課税です。キャッシュレス決済を導入したからといって、税制上の取り扱いが変わることはないのです。

「お布施」は支払えるのか?

お布施のキャッシュレス化には一部制限があります。交通系ICなどのプリペイドカードではお布施を支払うことができません。これは、対価の伴わない取引は送金とみなされてしまうためです。資金決済法の規制により、プリペイドカードを用いた送金行為はできないと定められています。

一方、クレジットカードやQRコード決済(PayPayなど)であれば技術的には可能です。ただし、お布施の性質上、現金でのお渡しを好まれる方も多いため、選択肢として提供することが重要です。

お賽銭は?

お賽銭箱のキャッシュレス化も進んでいます。特にPayPayが対応するようになったことで、スマートフォンを持った参拝者がQRコードを読み取るだけでお賽銭を納められるようになりました。これにより、現金を持ち合わせていない参拝者でも気軽にお参りができるようになっています。

設置も比較的簡単で、QRコードを印刷して貼り付けるだけで導入できるため、多くのお寺で採用されつつあります。

求めている人は多い

実際の導入事例を見ると、キャッシュレス決済のニーズは非常に高いことがわかります。366が導入を支援した寺院では、既存のご契約者のうち9割がキャッシュレスの支払いに切り替えたという実績があります。

この数字からも明らかなように、参拝者の側にもキャッシュレス化へのニーズが高まっています。特に若い世代や外国人観光客は現金を持ち歩く習慣が少なくなっており、キャッシュレス対応のお寺は利便性の面で大きな優位性を持っています。

具体的なサービス

paypay

お賽銭などで「PayPay」の利用が可能に | PayPay株式会社
PayPay株式会社(以下、PayPay)は、2024年12月より神社や寺院などへ行かれた際のお賽銭などに、キャッシュレス決済サービス「PayPay」が利用可能

QRコード決済の代表的サービスとして最も利用されているPayPayはお賽銭に対応しました。宗教法人が申し込むことで、PayPayでお賽銭(寄付金)を受け取ることができます。PayPayマネーでのみ利用することができ、PayPayマネーライトでは利用ができないため、注意が必要です。手数料は5%程度と見られています。

J-Coin Pay

J-Coin Pay - スマホでかんたん銀行の送金・決済アプリ
J-Coin Payは、お金のやりとりやお店でのお支払がスマホ1つでかんたんにできるアプリです。お金を送ることも、もらうことも、銀行への入出金がすべてがスマホであっという間、さらに手数料0円!最短5分でご登録いただけます!

みずほ銀行が主導し、金融機関によって運営されているサービス「J-Coin Pay」は早くからお賽銭のキャッシュレスに対応しています。銀行預金と連携した資金移動業務として提供がされています。他のQRコード決済はプリペイドバリューと現金等価バリューの両方を扱っていたために対応に時間がかかりましたが、J-Coin Payはそのハードルがなかったため、早くからお賽銭に対応しています。

おわりに

お寺のキャッシュレス化は、伝統と革新のバランスを取りながら進めることが重要です。税制面での懸念は実際には問題とならないことが多く、むしろ参拝者の利便性向上や管理業務の効率化といったメリットが大きいと言えるでしょう。

ただし、全ての決済をキャッシュレスに移行するのではなく、現金での支払いも併用することで、幅広い参拝者のニーズに応えることができます。時代の変化に合わせて柔軟に対応することが、これからのお寺運営には求められているのです。


引用:

[1] https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240329006/20240329006.html 

[2] https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1651061.html 

[3] https://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/179.html 

[4] https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000086.000031359.html 

[5] https://www.cr.mufg.jp/mycard/beginner/20022/index.html 

[6] https://paymentsjapan.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/roadmap2023.pdf 

[7] https://ebisumart.com/blog/cashless/ 

[8] https://mypage.otsuka-shokai.co.jp/contents/business-oyakudachi/ganbaru-magazine/zukai-navi/2023/12-01.html 

[9] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB06AHY0W4A101C2000000/ 

[10] https://8knot.nttdata.com/trend/7194012

[11] https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/r07_shukyo.pdf 


タグ:お寺, DX, キャッシュレス, 賽銭, お布施, PayPay, J-Coin Pay, 宗教法人, 効率化

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