SLAって何?簡単に説明すると
SLA(Service Level Agreement)は「サービスレベル合意書」や「サービス品質保証契約」と呼ばれる文書です。IT系のサービスやシステム運用を外部の会社に委託する際に、「このレベルのサービスを提供します」と約束する内容を文書にしたものです。
例えるなら、宅配便の「午前中お届け」や「翌日配達」のような約束事です。サービスを提供する側と利用する側が、「どのようなサービスを、どのレベルで提供するか」についてあらかじめ合意しておくための契約書と考えるとわかりやすいでしょう。
システム開発をしていくにあたって、寺院ならではの要件や要望が発生します。どこまでやってほしいか、あるいはそこまではやらなくてよい、ということをあらかじめ決めたうえで、システムベンダーや関係会社と合意をすることになります。その合意のことを「SLA」と呼んでいます。
なぜSLAが必要なの?
「契約書があれば十分では?」と思われるかもしれませんが、SLAには重要な役割があります。
サービスの「質」を明確にできる
一般的な契約書では「何をするか」は書かれていても「どのくらいのレベルでするか」までは詳しく書かれていないことが多いです。SLAがあれば「システムの稼働率は99.9%以上」「障害発生時は30分以内に対応開始」などのサービスの質を明確にできます。
期待値のギャップを埋められる
サービスを提供する側と利用する側で期待値が異なると、後々トラブルになりがちです。SLAで明確にしておけば「こんなに時間がかかるとは思わなかった」「そこまでの品質は求めていない」といった認識のずれを防げます。
サービス改善の指標になる
SLAで定めた数値は、サービス品質を測る物差しになります。定期的に実績を確認することで、サービスの質が向上しているか、問題がないかを客観的に評価できます。
SLAに書くべき基本的な内容
初めてSLAを作る場合、何を書けばよいか悩むかもしれません。サービスの内容によって異なりますが、一般的には以下のような項目を含めます。
1. サービス提供時間
サービスを提供する時間帯を明記します。24時間365日なのか、平日の9時から17時までなのか、メンテナンス時間は含まれるのかなど、具体的に書きます。
例:
- 基本サービス提供時間:24時間365日
- ヘルプデスク対応時間:平日9:00~17:00(祝日・年末年始を除く)
- 定期メンテナンス:毎月第3日曜日 23:00~翌3:00
2. 可用性(アベイラビリティ)
システムやサービスが正常に利用できる時間の割合を示します。一般的には「稼働率」として表現されることが多いです。
例:
- 月間稼働率:99.9%以上(月間の計画外停止時間が43分以内)
- 計画メンテナンス時間は稼働率の計算から除外
- 土日・お盆・お彼岸は「特定日」として、稼働率を99.99%となるように。
稼働率の参考:
- 99.9%(スリーナイン)= 月間約43分の停止許容
- 99.99%(フォーナイン)= 月間約4分の停止許容
- 99.999%(ファイブナイン)= 月間約26秒の停止許容
3. 障害対応
システムやサービスに問題が発生した場合の対応について定めます。
例:
- 重大障害(サービス停止):30分以内に初期対応、2時間以内に復旧
- 中度障害(一部機能停止):1時間以内に初期対応、4時間以内に復旧
- 軽度障害(軽微な不具合):4時間以内に初期対応、24時間以内に復旧
- 障害報告:障害発生から24時間以内に原因と対策を報告
4. パフォーマンス
システムやサービスの性能に関する基準を定めます。
例:
- Webページの応答時間:3秒以内
- データ処理速度:1,000件あたり5分以内
- 同時アクセスユーザー数:最大500ユーザー
5. サポート対応
問い合わせやサポート依頼への対応基準を定めます。
例:
- 問い合わせ受付時間:平日9:00~17:00
- 緊急問い合わせ対応時間:2時間以内
- 一般問い合わせ対応時間:24時間以内
- サポート方法:電話、メール、チャット
6. セキュリティ対策
情報セキュリティに関する基準を定めます。
例:
- セキュリティパッチの適用:重要度の高いものは1週間以内
- ウイルス対策ソフトの定義ファイル:1日1回以上更新
- セキュリティ監査:年1回実施
7. バックアップと復旧
データのバックアップと復旧に関する基準を定めます。
例:
- バックアップ頻度:1日1回
- バックアップデータの保存期間:30日間
- 障害時のデータ復旧:4時間以内
8. 報告とレビュー
サービスの状況報告やレビューについて定めます。
例:
- 月次レポートの提出:翌月10日まで
- サービスレビュー会議:四半期に1回
- SLA見直し:年1回
9. ペナルティと報奨
SLAを達成できなかった場合のペナルティや、基準を上回った場合の報奨について定めることもあります。
例:
- 月間稼働率が99.5%を下回った場合:月額料金の10%返還
- 月間稼働率が99.0%を下回った場合:月額料金の30%返還
- サポート対応時間を3か月連続で達成した場合:次月の監視料金10%割引
SLA作成のコツ
実用的なSLAを作るためのポイントをいくつか紹介します。
測定可能な指標を使う
「迅速な対応」「高品質なサービス」といったあいまいな表現ではなく、「2時間以内の対応」「エラー率0.1%以下」など、測定可能な数値で表現しましょう。これにより、達成度を客観的に評価できます。
現実的な数値を設定する
理想を追求するあまり、非現実的な数値を設定すると、コストが高くなったり、達成できずに信頼関係が損なわれたりします。業界標準や過去の実績を参考に、現実的な数値を設定しましょう。
優先順位をつける
すべての項目を最高レベルにすると、コストが高くなります。業務に重要な項目(例:決済システムの稼働率)は高い基準を設け、それほど重要でない項目は柔軟に設定するなど、メリハリをつけましょう。
測定方法を明確にする
「稼働率99.9%」と定めても、その測定方法が明確でなければ意味がありません。どのように計測するのか、何をもって「障害」と定義するのかなど、評価方法も明確にしましょう。
SLAの運用方法
SLAを作成したら、次のように運用していきます。
定期的な実績報告
SLAで定めた項目について、定期的(月次や四半期ごと)に実績を報告します。目標値と実績値の差異があれば、その理由と改善策を検討します。
例えば、月次報告書には以下のような内容を含めます:
- 月間稼働率:目標99.9%に対し実績99.95%
- 障害発生件数:重大障害0件、中度障害1件、軽度障害3件
- 平均応答時間:目標3秒に対し実績2.5秒
- サポート対応時間:目標24時間以内に対し平均14.5時間
定期的なレビュー会議
サービス提供者と利用者が定期的に集まり、SLAの達成状況や課題について話し合います。必要に応じてSLAの見直しも行います。
レビュー会議では以下のような点を確認します:
- SLAの達成状況
- 未達成項目がある場合の改善策
- 利用者側の要件変化の有無
- SLAの変更が必要な項目
SLAの見直し
ビジネス環境や技術の変化に合わせて、定期的(通常は年1回程度)にSLAの内容を見直します。過剰な基準を緩和したり、不足している項目を追加したりします。
よくある失敗とその対策
SLAを運用する上でよくある失敗例と、その対策を紹介します。
現実離れした目標設定
「100%の稼働率」「即時対応」など、技術的に達成不可能な基準を設定してしまうケースがあります。
対策: 業界標準や技術的な制約を考慮し、現実的な数値を設定しましょう。例えば、稼働率は「99.9%以上」など、多少の余裕を持たせるとよいでしょう。
測定不能な項目の設定
「使いやすさの向上」「迅速な対応」など、客観的に測定できない項目を含めてしまうケースがあります。
対策: すべての項目を「〇〇以内」「〇〇%以上」など、数値化できる形で表現しましょう。どうしても数値化できない項目は、評価方法を具体的に定めておきましょう。
形骸化
作っただけで実際には確認せず、形だけのSLAになってしまうケースがあります。
対策: 定期的な報告とレビューの仕組みを確立し、PDCAサイクルを回しましょう。報告書のフォーマットを標準化し、効率的に確認できるようにするのも有効です。
業種別SLAの例
業種やサービス内容によって、SLAの重点項目は異なります。代表的な例を紹介します。
クラウドサービスのSLA例
クラウドサービスでは、可用性(稼働率)やパフォーマンスが重要になります。
重要な項目例:
- サービス稼働率:99.95%以上
- サービス応答時間:1秒以内
- 計画外停止時の通知:10分以内
- データバックアップ:1日1回、30日間保管
ヘルプデスクのSLA例
ヘルプデスクでは、応答時間や解決時間が重要になります。
重要な項目例:
- 電話応答率:80%以上を30秒以内に応答
- 問い合わせ初回対応:2時間以内
- 問題解決率:80%を当日中に解決
- エスカレーション:解決困難な問題は4時間以内に専門チームへ
システム運用保守のSLA例
システム運用保守では、障害対応や定期的なメンテナンスが重要になります。
重要な項目例:
- 監視:24時間365日
- 障害検知後の初期対応:30分以内
- 障害復旧:重大障害は2時間以内
- セキュリティパッチ適用:重要なものは1週間以内
まとめ
SLAはサービスの品質を保証するための重要な合意文書です。「何を」提供するかだけでなく「どのレベルで」提供するかを明確にすることで、サービス提供者と利用者の間の期待値のギャップを埋め、信頼関係を構築することができます。
初めは簡単な項目だけのシンプルなSLAから始めて、運用しながら徐々に改善していくのが現実的なアプローチです。重要なのは、達成可能で測定可能な目標を設定し、定期的に実績を確認することです。
SLAは単なる契約文書ではなく、サービス改善のためのツールでもあります。適切に活用することで、サービスの品質向上とユーザー満足度の向上につながるでしょう。

京都大学農学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て、ギガフロップス株式会社を創業。同社売却の後、游仁堂の創業、株式会社鎌倉新書の取締役などを歴任。366創業時から事業に参画。2021年より取締役。行政書士、宅建士の顔も併せ持つ。
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